プラチナ・クエスチョンで顧客を生涯キープする

あなたのビジネスに対する顧客の評価を知る方法は、顧客の目線になることだ。

ある若者が薬局の公衆電話に入ると、つぎのような会話が薬剤師の耳に入ってきた。
「もしもし、スミスさんのお宅ですか?庭師のご入用がないかと思いましてお電話さしあげました。ああ、
既に庭師はお雇いですか…。彼は腕のいい庭師ですか?…その仕事ぶりには十分に満足されてま
すか?…その庭師の仕事でご不満な点はありませんか?…今後もその人をお雇いになるおつもりなん
でしょうか?…そうですか、そんなに素晴らしいサービスを受けていらっしゃるとは。ありがとうございました。
失礼いたします。」

薬剤師は電話を終えた青年に言った。「ジョニー、君の話を聞いてしまったんだが…。おせっかいは承知
だが、君はスミス家の庭師じゃなかったかい?」ジョニーは「その通りです。ただ自分の仕事ぶりがどう
だったのか確認したかったんです」と答えた。ジョニーはこんなに若くして、顧客を維持するためには顧客が
自分の仕事をどう評価しているのか常に確認することが大切だと知っているのだ。
あなたの業種が何であるかに関わらず、顧客があなたの現在のサービスの何がよくて何が悪いと思って
いるのかを知らずして、顧客に提供する報酬を改善することはできない。顧客にプラチナ・クエスチョンを
行い、この貴重な知恵を得るのだ。

・われわれのサービスはいかがでしょう?
・よりよいサービスは何でしょう?

この質問の回答によってつぎのことが分かってくる。

・あなたのサービスの質に対する顧客の評価
・その評価を高めるために何をすべきか

長期的な利益を考えるときの唯一最も重要な要素は、顧客1人ひとりの評価基準は異なるということ
である。巨額の資金は、顧客維持を成功させるのにあまり役立たない。顧客が認識できるような、上質
のサービスを提供することによって顧客維持ができる。

オーストリッチ・シンドローム(自己欺瞞症候群)

顧客に「われわれのサービスはいかがでしょう?」「よりよいサービスは何でしょう?」と尋ねる定期的で
システマチックな取り組みをしないビジネスに何が起きるか考えてみよう。リピート客と長期的な大きな
利益を失うことは確実だ。また、最悪の事態として、この無知の烙印は経済的自滅へ追いやる。顧客
獲得と顧客維持をしようとする段階で、顧客にフィードバックするシステムがない企業は、現実を逃避し
て何とかなると思っている。
ロバート・アンソニー博士は、「自分の頭を砂に埋めたら(=自己欺瞞)、背中を蹴られることは確かだ」
という。顧客満足は非常に重要で、殆どのビジネスで顧客満足を測定しその情報を仕事に結び付ける
ような戦略をもつようになる。

しかし、信じるかどうかは別として、大企業から家族経営の会社まで圧倒的多数のビジネスでは、顧客
満足の問題から現実逃避してそのうち良くなるだろうと思っている。企業は、キャッシュ・フロー、生産性、
マーケット・シェア、利益など獲得するために努力を傾注するのと同じように顧客満足の測定に投資しなく
てはならない。
ようやくほんのわずかではあるが、自社のサービスに対する顧客満足度の情報収集、測定と監視(モニ
ター)を試みる会社がでてきた。

 トム・ピーター氏とナンシー・オースチン女史の共著『A Passion for Excellence』で、彼らは多くの企
業が顧客満足の測定をどう扱っているのかという厳しい証言をしている。40社の社長が参加したセミナー
では40名全員が長期的な顧客満足が最優先であると述べている。
「では顧客満足を測定していますか?」との質問に対し、行っていると答えた人40人中1人もいなかった。
132名のエグゼクティブにも同様の質問を試みたが、同じ結果であった。全員が長期的顧客満足は実行
すべき基本事項であると賛同しているにもかかわらず、誰もそれを測定していなかった。要するに、殆どの
企業は顧客満足のシステマティックな測定法を実際に持っていなかった。
 なぜもっと多くの企業が顧客満足度を測定し、その情報を仕事に結びつけていないのか。よく言われる
ことは、「測定方法が分からないのです」。確かに金額で測定できるキャッシュ・フローや投資効率や総利
益や他のビジネス上の尺度と異なり、顧客満足は曖昧で漠然とした概念である。しかし現実には経理担
当者や財務アナリストが出す明確で厳密な数字が全て完璧でないのと同じように、完璧な情報というもの
はないのである。

サービスの質は測定可能

 若い脚本家の衣装リハーサル中、年老いたカール・サンドバーグ氏が寝入っていると、脚本家は激怒
した。「あなたの意見を必要としているときに、一体どうして寝てしまうんですか」と彼は聞いた。サンドバーグ
氏の答えは「若者よ、私が寝ていること自体が意見だ」。
 どんな結果であろうと、あなたが提供するサービスの質に対して顧客は意見があり、意見を定期的に
収集し測定すると、購買と顧客維持の増大、顧客を取り戻す必要性という重要な情報が入手できる。
不可能な作業だと思うかもしれないが多くの企業は実施しており、また将来的にはさらに多くの企業が
実施するだろう。

 どの顧客満足度測定プログラムも各ビジネス特有のニーズにあわせてつくられなければならない。たとえ
ば、比較的顧客数の少ない小規模のビジネスの場合、通常、顧客にプラチナ・クエスチョンに回答を記入
してもらい、思いついたよい点、悪い点、改善すべき点を提言してもらう。しかし、顧客数が多い大規模
ビジネスでは、顧客の評価を正確に理解するより組織的で包括的なアプローチが必要だろう。大規模ビジ
ネスの場合、プラチナ・クエスチョンに必要な特有の回答を入手し、それを仕事に結び付けるアイディアを
以下に述べる。

1. アンケートの質問は簡単な文章で構成する

あなたは多分「われわれのサービスはいかがでしょう?」「よりよいサービスは何でしょう?」という大まかな
質問よりも、顧客が何をよく何を悪いと評価しているのか明確に知るため、もっと細かく具体的に質問した
いだろう。サービスの重要かつ特定の側面について質問事項を設定し、顧客に1〜5段階もしくは1〜10
段階の企業評価をしてもらう。そして顧客の意見を文章で書いてもらうスペースをつくる。下図は簡単な
アンケート事例。

お客様の声をお聞かせください。 差し支えなければご記入ください。
私たちのサービス提供で最も大切なのはお客様に喜んでいただくことです。よいサービスの質を維持するためアンケートにどうぞご協力ください。右の解答欄に印をつけ、切り取った上で郵便ポストに投函ください。 ご氏名:
ご住所:
 
 
 
下記について5段階評価をお願いします。    大変よい よい  普通  悪い とても悪い
1.サービスは迅速でしたか? 1.     5    4    3    2    1
2.従業員の対応は親切でしたか? 2.     5    4    3    2    1
3.店内はきれいでしたか? 3.     5    4    3    2    1

4.取り扱い商品はいかがでしたか?
(ご希望の品は揃っていましたか?)

4.     5    4    3    2    1
 
5.商品の価格はいかがでしたか? 5.     5    4    3    2    1
6.駐車場と店舗の外装はいかがでしたか? 6.     5    4    3    2    1
7.当店への最近のご来店はいつ頃ですか? 7.     5    4    3    2    1
8.商品・サービスに関するご意見をお書きください
8.ご意見:
 
○○○・△△△△  
ご協力誠に有り難うございます。 ご記入日: 月 日 時間:午前・午後  時  分
顧客サービス課:フリーダイヤル***-**** 店舗名:               店

2. 顧客に電話アンケートを行う。

電話アンケートは費用がかかるが、全体像が最もとらえやすい。わずかな時間で多くの質問ができ、さま
ざまなサンプルがとれる。記入式のアンケートでは、企業とのやり取りに対してはっきりした好みを持つ顧客
しか回答しない傾向があり、顧客評価の全体像を正確に反映しないことがある。記入式アンケートと
同様に、顧客に自社のサービスの質について質問し、それを1〜5段階もしくは1〜10段階に評価して
もらう。以下は質問事項の例である。

・われわれの契約は守られていますか?
・ 一回目で適切に対応していますか?
・ 時間通りに対応していますか?
・ あなたの求めるサービスに対して早く対応していますか?
・ 必要なときすぐわれわれに連絡がつきますか?
・ われわれの対応は親切で丁寧ですか?
・ 従業員はあなたの母国語を話せますか?
・ われわれはあなたの要望に耳を傾けていますか?
・ あなたを満足した顧客として維持するためわれわれは努力していると思われますか?
・ われわれのサービス、商品に対して信頼を持たれていますか?
・ われわれはあなたの特別なニーズやご要望に理解し応えていますか?
・ われわれの施設、商品、コミュニケーションと従業員のあり方について総合評価してください。
・ われわれのサービスを総合評価してください。
・ あなたが利用している他社のサービスの質について総合評価してください。
・ 弊社をすすんで人に勧められますか?
・ 弊社商品をまた購入しようと思われますか?

上記の質問を会社特有のビジネスにあわせて修正、補足すればするほど、回答の価値は高まる。
たとえば、電話会社なら「請求書の発行はどれだけ正確で適時ですか」と聞きたいだろう。保険会
社は「苦情はどれだけ早く簡単に処理されましたか」と質問したいかもしれない。つまり顧客が重要
だと感じているサービスの特定の側面を正確に読み理解することが考え方の基本だ。
自由記述式の質問を加えることも大切。段階評価の質問はあくまでも測定の基準であり、
価値ある情報を与えてくれないため、顧客自身の言葉を聞く必要がある。一般的にはよく練られた
選択式と自由記述式の質問を組み合わせて、評価を受けた長所と短所の明確な像をつかむ。
自由記述式の質問例を以下に挙げる。

・ 弊社はあなたにとって不快なことをしていますか?
・ 最も好ましく感じているサービスは何ですか?
・ よりよいサービスとして何を求められますか?
・ あなたにとって最も重要な弊社のサービスは何ですか?

顧客が最も重要だとするサービスが顧客の購買を促すわけではないため、最後の質問には慎重に
ならなくてはならない。たとえば、航空会社の乗客は安全が一番大切だというが、それは航空会社を選ぶ
基準ではない。
乗客はすべての航空会社が安全だと思っている。
全顧客にアンケートを行うことは不必要で、また通常は不可能だ。長期顧客のサンプルを任意で、
また他のサンプルとして初回購入客を選び出し、インタビューする。これは、顧客が抱く第一印象と
後まで続く印象がどういう類のものか理解できるよい方法である。

3. 必ず離反顧客のフィードバックも行うこと

顧客が離反したら、離反の理由と再来店してもらうために何ができるのかを知る必要がある。手紙に
切手不用のアンケートはがきを同封し、記入して返送してもらう。たとえば、手紙の内容は次の通り。

 スミス様
 弊社の成功にはあなたに満足していただくことが重要であるため、あなたのサービス
 利用が終了したことを非常に残念に思っています。当方の怠慢が原因ではないことを
 祈っておりますが、もしそうである場合は、どんな点であなたの期待に応えられなかったのかを
 お教えいただけませんでしょうか。お手数ですが同封のアンケートにお答えいただけますと幸いです。
 われわれは最善をつくしており、あなたのご意見はさらなる改善の助けとなります。お時間と情報を
 いただけると大変有り難く存じます。そしてまた近い将来あなたにサービスを提供できますことを期待
 しております。

コメント・カードと同じく、離反顧客カードは図表2のように簡潔でなくてはならない。どんな場合も(離反
の)理由を見つけることなく常客を離反させてはならない。もしその顧客を個人的に知っているなら、電話
もしくは訪問して彼らを取り戻すためにできる限りのことをする。事態をうまく処理すれば、相当数の離反
顧客をすくいあげ、また将来このような災難を防げるようになる。

図表2:離反顧客の調査カード

● 私が御社との取引を止めた理由は:
 
□商品の品質 □引越し
□サービスの質 □他社からのよりよい提案
□従業員の態度 □苦情処理の扱い
□価格の問題 □請求書などの問題
 
その他の理由:
 
 
● 問題があった場合、担当責任者がご連絡差し上げ対応させていただきますことを希望されますか?  
  □はい □いいえ
 
氏名:
役職: 会社名:
住所:
*宛先が表になるよう折りのり付けしてご返送ください。切手は不要です。

4. 情報収集をはじめたら、それを仕事に結び付ける

簡単な方法は、長所と評価された点は利用し、短所といわれた点を改善すればよい。自分のチームが
段階評価質問で受けている評価の平均値を得たら、改善するため各部門ごとに期限付きの一定の目標
を設定する。最も改善を必要とする問題の分野をリストにし、つぎに重要性の高い順にランク付けする。最
重要の問題を早急に改善するようターゲットし、従業員全員に「この問題改善に個人ができることは何か」
を尋ねる。
顧客アンケートでは、今まで報告されたことのない意見に気を配らなくてはならない。一つ一つを徹底し、
顧客に改善した点を知らせる。

積極的な活用側面では、長所として評価された点は基礎とする。たとえば、確実性と責任感で高い評価
を得ているなら、広告やマーケティングで「ご注文どおりに配達します」「ご存知の通り、ご入用の際はすぐに
駆けつけます」などのメッセージで強調できる。これは既存顧客が利用をつづける理由を確認させ、見込み
客には購買の動機を与える。

5. 質問と改善を続けよ

プラチナ・クエスチョンの回答は単発のアンケートで見つけ出すことはできない。顧客が常にあなたのビジネ
スをどう見ているのか発見する継続的プロセスを求められる。一年に少なくとも数回はアンケート調査を
行い、決して現状に満足してはならない。自己満足は怠慢を生むため、自分に満足しないことが発展の
鍵となる。経済、天候や顧客の教養などといった自社の活動に関係のないことを取り上げてはならない。
つまらないものを責めてはいけない。今日なされたことすべては、将来、よりよく違うかたちで行われるように
改める。あなたが改善しなくても、競合者が改善することは確実だ。

あなたのサービスに対する顧客の評価も含め、すべては変わっていく。顧客の意見を聞き、取り入れ、改善
しつづける賢明な努力により、長期的成功のための企業文化が構築される。保証された公式ではないが、
プラチナ・クエスチョンは賭けに値する方法である。

 

顧客満足に関する参考書

『J.Dパワー 顧客満足のすべて』J.DパワーW ダイヤモンド社
『儲かる顧客のつくり方』ハバード・ビジネス・レビュー編集部 ダイヤモンド社
この書の2章顧客のロイヤルティを測る究極の質問
さまざまな業界で際立って有効だった質問
「この会社を友人や同僚に紹介したいと思いますか?」